1936年(昭和11年) 民謡 編曲:服部良一
ちらっと聴いただけで「古すぎる…」と放置していた CD「 服部良一~ 僕の音楽人生」。
ある日ふと聴き直して驚いた。演奏も歌も曲もアレンジも非常にクオリティーが高い。
有名な「蘇州夜曲」も素晴らしいが、すっかり魅了されたのが「 草津ジャズ」というインスト曲だった。
テンポが良い。演奏のキレが良い。旋律が瑞々しい。アレンジがかっこいい。
これはどういう曲だと慌てて解説を読んだら「草津節」だという。
草津よいと~こ~いちど~は~おいで~ドッコイショ、というアレだった。
聴き直してみると確かにあの曲だ。
しかし旋律をスパスパ切って「かっこいいワンフレーズ」にしてる。
それを高速リズムに次々とぶち込んで来るから疾走感がハンパなくて、民謡には聴こえない。
(戦前の曲なんてボンヤリしたのばかりだろう)と見くびっていた自分が恥ずかしい。
ピリッとしているのにコクがあるというか、これは…ああ、まさに名湯「草津温泉」が如く…
そんなわけで、この曲に出会っていろいろ知ることができた。
宣伝の曲かなと思っていた草津節が明治期に作られた民謡だと知り、
戦前の日本に非常にクオリティの高いジャズ演奏があったと知り、
日中戦争直前(昭和11年/二・二六事件の年)に、まだ西洋の音楽が親しまれていたと知り、
当時のミュージシャンが本場の模倣に飽き足らず独自性を獲得していたと知り、
ひょっとして、他にもカッコいい演奏がワンサカあったのではないか?と思うに至った。
はーありがたやありがたや。
そして「当時の人々と音楽の関係」が、もっと知りたくなった。
どのような人々が聴いていたのか?
どのように聴いていたのか?
聴いた人は何を感じたのか?
聴いた人はどのような反応を示したのか?
当時の知識も乏しく、あまり想像できない。ちょっと調べたがよく分からなかった。
取り敢えずハイカラなお嬢さんが「まあ!素敵だわ!」と蓄音機の前で踊り出す光景を思い浮かべてウットリした。
イメージは「向田邦子ドラマシリーズ」の田中裕子か、戸田菜穂か。
もし自分が当時を生きた人間だったとしたら
「昭和10年代の日本人なんて不幸なだけでしょ?」などとほざく現代の自分に向かって、
黙ってこのレコードを差し出したい。
CD添付の解説によると「草津ジャズ」は1936年(昭和11年)3月6日の吹き込み。
その頃はアメリカもスイング期の初期であり、全盛期スイングバンドのレコードはまだ紹介されていなかったという。
コロムビア・ジャズ・バンドは昭和4年に結成されたレコード会社専属のオーケストラで、国内最高の実力を誇ったとのこと。
このときのメンバーは渡辺良(リーダー)Bs、小畑益男Tp、森山久Tp、鶴田富士男Tb、芦田満As、松本伸Ts、橋本淳As、角田孝Gt、田中和夫Ds、加藤辰雄Pfの10人編成。